頚椎椎間板ヘルニアにおけるMRミエロの有用性について
頚椎椎間板ヘルニアの診断において、MRIは非常に重要な検査ですが、「MRミエログラフィー(MRM)」は、従来の造影剤を用いた脊髄造影(ミエログラフィー)に代わる、非侵襲的な(体を傷つけない)画像診断法です。
MRミエログラフィー(MRM)とは?
MRミエログラフィーは、MRIの特定のシーケンス(T2強調画像を極端に強調したもの)を用いて、脳脊髄液(CSF)の信号を非常に明るく(高信号に)描出し、それ以外の組織の信号を極力抑えることで、脊髄や神経根が周囲の脳脊髄液に囲まれて白く浮かび上がるように見える画像を得る技術です。
これにより、まるで造影剤を注入したかのように、脊髄腔(脊髄が入っている空間)の形状や、脊髄・神経根の圧迫状況を立体的に把握することができます。
頚椎椎間板ヘルニアにおけるMRミエログラフィーの有用性
MRミエログラフィーは、頚椎椎間板ヘルニアの評価において、以下の点で特に有用です。
1. 非侵襲性:
- 従来の脊髄造影(X線ミエログラフィー)では、腰椎から針を刺して脊髄腔に造影剤を注入する必要があり、患者さんにとって負担が大きく、頭痛や吐き気などの合併症のリスクがありました。
- MRミエログラフィーは、造影剤の注入が不要なため、体に負担をかけることなく、同等の情報(脊髄腔の狭窄や圧迫)を得ることができます。これは患者さんの安全性と快適性を大きく向上させます。
2. 脊髄腔の狭窄や圧迫の明瞭な描出:
- 椎間板ヘルニアによって脊髄や神経根が圧迫されている場合、MRミエログラフィーでは、白い脳脊髄液の流れが圧迫部位で途切れたり、細くなったりしている様子が非常に明瞭に描出されます。
- これにより、ヘルニアが脊髄腔をどの程度狭窄させているか、また脊髄や神経根のどの部分を圧迫しているかを視覚的に分かりやすく評価できます。
3. 多方向からの評価:
- MRIと同様に、矢状断(側面)、軸位断(横断面)、冠状断(正面)など、様々な方向から画像を得ることができます。特に、広い視野で頚椎全体の脊髄腔の狭窄やヘルニアの突出部位を一度に確認できるため、病変の全体像を把握するのに役立ちます。
4. 脊髄造影CT(CTミエログラフィー)の代用:
- 従来の脊髄造影後にCTを撮影する「脊髄造影CT」は、ヘルニアの位置や神経への影響をより詳しく、立体的に評価できるメリットがありましたが、放射線被曝を伴いました。
- MRミエログラフィーは、放射線被曝なしで、脊髄造影CTで得られるような脊髄腔の情報を提供できるため、近年では脊髄造影や脊髄造影CTの代わりに用いられることが増えています。
5. 脊髄症の評価補助:
- 通常のT2強調画像で脊髄内部の高信号(脊髄症性変化)が描出されることが重要ですが、MRミエログラフィーで脊髄の圧迫がはっきりと見えることで、脊髄症の診断と治療方針の決定を補助します。
MRミエログラフィーの限界と注意点
- 動態評価はできない: 患者さんの体位を変えたときの脊髄の圧迫の変化(動態圧迫)を評価することはできません。これはX線を用いた通常の脊髄造影の得意分野です。
- アーチファクト: CSFの拍動による動きや、金属製のインプラントなどがあると画像に影響が出ることがあります。
- 通常のMRIとの組み合わせ: MRミエログラフィー単独で全ての情報が得られるわけではありません。T1強調画像や通常のT2強調画像、T2*強調画像など、他のMRIシーケンスと組み合わせて総合的に評価することが重要です。これにより、ヘルニア自体の詳細な構造、脊髄実質内の変化、骨病変など、多角的な情報を得ることができます。
まとめ
MRミエログラフィーは、非侵襲的でありながら、脊髄や神経根の圧迫状況を非常に鮮明に描出できるため、頚椎椎間板ヘルニアの診断において非常に有用なモダリティです。しかし、あくまで画像情報の一部であり、患者さんの臨床症状・病状経過や他のMRIシーケンスの所見と合わせて総合的に判断する必要性があります。当院でも症状に合わせて適宜取り入れ、組み合わせることにより治療法の選択に活かしています。